「 8月6日 」
日曜だというのに出勤である。駅のホームで電車待ちをしているとサイレンが鳴り響いた。火事だろうか、わたしは一瞬辺りを見回した。時計を見る、8月6日午前8時15分、わたしは随分長いサイレンだなあと思いつつ、ハッとして黙祷した。サイレンの残り20秒間だけだったが、ホームに落ちそうになりながら目をつぶった。シンガーソングライターをやっていた頃の担当ディレクターのお母様が広島の方で、2次被爆で苦しんでおられたことを思い出した。
谷川俊太郎の詩「朝のリレー」ではないが、わたしは地球上の命の数と同じ数の朝を想像した。世界は運命という名の糸でがんじがれめに縛られている。眠い目をこすりあくびをする瞬間に、世界のどこかでは銃弾に命を落とす者もいるのだ。せめて、幸運にうつつを抜かすことなく、不運に目をそむけることなく生きて行きたい。
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