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「若奥さん」         某月某日  松竹映画舞台装置工場

 今はもう無くなってしまったけれど、かつて近所(川口市)に広大な松竹映画の舞台装置工場があって、タタキ(金槌)を腰に挿した職人たちが動きまわりその周辺はいつも活気にあふれていた。
 わたしはこの道が大好きで、中を覗きこみながら回りをよくうろついたものだ。工場から出て行くトラックには派手な色に塗られたベニアの城や舞台背景画が乗せられていた。いつか無くなる運命なのはなんとなく解っていたが、昭和の名残りのような景色がしがみつくようにしてそこには有った。建物(倉庫群)自体もまた、なかなかに絵になっていて群馬・桐生あたりのノコギリ屋根などを連想させる造りだった。
 
 ある日その工場の横を歩いていると、乳母車(ベビーカー)を押した若い女性とすれちがった。わたしはその美しさにハッとし、思わず立ち止まって見とれてしまった。
「子供を産んだばかりの女っていうのが、一番きれいだと俺は思うな。ホルモンの分泌のせいだと思うが、すべてにおいてバランスがとれていて女の一生で一番いい時期なんだ。肌がマシュマロのように柔らかいんだぜ〜」
 わたしは、高校時代に友人Yが言った言葉を思い出しながら「結婚するなら若奥さんがいいなあ」と妙なことを思った。