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わたしがシンガーソング・ライターだったことは家族も知らない

「 詫びるなら…今でしょ!」   高見恭子さま、ごめんなさい。

 オールナイトニッポンのDJをやり始めて1ヶ月ぐらい経った頃、ディレクターが笑いながら言うのだった。
「もうだいぶしゃべりにも慣れたみたいだから、好きな人とか会いたい人がいたらゲストに呼んでいいっすよ。セッティングはこっちでやるっすから」
 わたしは嬉しかった。会いたい人がいたからだ。

 わたしはテレビの「ウィークエンダー」に出ている高見恭子さんをすぐに指名した。わたしより背が高いのは癪だったが、なんといっても顔がかわいい。かわいい上に赤ちゃん肌だ。キメの細かい肌は一生もんなんだぜ〜。さらに若い女性にしては発言が実に大胆だ。頭も相当よさそうである。才色兼備だが過剰な色気が無いところが実にすばらしい。ほぼ100%わたし好みだった。会えればもしかすると恋愛に発展するかもしれないし、まかり間違えば結婚ということになるかもしれない。うーわ〜ッ、妄想は100乗ぐらいに膨れ上がっていった。

 彼女は翌週に突然やって来た。わたしを驚かそうというスタッフの作戦でもあったのだろう。いま風にいえばサプライズというやつやね。しかしだ、それが裏目にでてしまったのだ。ちゃんと下調べをする時間もとれず、ぶっつけ本番のようなものである。
 その時点でのわたしの持っていた彼女のデータは「ウィークエンダーという人気はあるがちょっと下世話な番組で、目下売り出し中のかわいい女性レポーター。期待度は高いが、まだポッと出のタレントの卵」とまあ、そんな程度の認識しか無かったのである。もちろん先ほど書いたように、熱烈大ファンではあったのだけどネ。

 もう35年ぐらい前のあいまいな記憶なので細かい部分が上手に表現できない。それに仮に相手がポッと出の新人だったとしても、わたしはその人に対して高飛車とか横柄な態度をとるような男ではないのだ。
 がしかし、あの日わたしは確かに彼女を非常〜に嫌な気分にさせてしまったような気がするのだ。茫洋とした記憶ではあるが霧の彼方に彼女の頬の引きつりがまだ見えるような気がする。
 言葉というものはほんとうに怖い。どうしてそうなるの? というぐらいに雰囲気や口調やその時の心情でねじれて伝わってしまうことがあるのだ。
 
 わたしはこんなつもりを言ったのだった。
「人気がウナギのぼりで絶好調ですね。見るからにフットワークが良さそうですものねえ。すぐに来てくれてとても嬉しいです。さすがです。そういう足の軽さが大事なんですよね。ありがとう。オールナイトニッポンに出た(出られた、と言ったかもしれない。ずいぶんニュアンスが変わる)ことで、さらにあなたの人気が上がればこんなに嬉しいことはありません。何回でもお呼びしますよ」
 しかし、彼女には次のように聞こえたようだった。
「人気急上昇中の奴はさすがにちがうねえ。いかにも貪欲そうだよねえ。やっぱオールナイトニッポンに出られればまたまた知名度が上がって嬉しいなあってんで、チャンス!ってんですぐに飛んできたわけだ。這いあがってくるやつはやっぱちがうね。呼んでやったのは俺だかんな。これからもいくらでも呼んでやるぞ、タハタハタハ!」
 ちょっと極端だが、名前も聞いたこともないようなパーソナリティーにそんなことを言われたら、いくら穏やかな人でも切れると思う。
 高見恭子さんが怒って帰ってしまったという記憶は無い。だが、かといって笑いながら「また会いましょう」と言ってくれた記憶もない。縁が無かったのだろうか。「ひと目惚れ」の真逆の「ひと目嫌い」ってやつだったのだろうか。なら分かる気もするし納得もいく。
 今となっては、全てが夢だったのかも知れないなあ、と思えるほどオボロなってしまった。

 高見恭子さんが元々売れっ子モデルであったこと、小説家・高見順さんのお嬢様であること、そのお嬢様イメージと体当たりレポートのギャップが人気の秘密であり、評価と多くの支持をえていること、また一方で文筆家でありその他「多角才女」である……etc.、ということを知ったのはその後すぐであった。すでに十分マルチに活躍中だったわけである。ウィークエンダーなんかに出ていなくても、とってもとっても有名な方だったのだ。
 彼女は現在、みなさんご存知のとおり、衆議院議員「馳浩(はせ ひろし)」氏の奥様である。
 
 この文章が高見恭子さんの目に入る可能性は限りなく低いが、それでも生きてるうちにちゃんと謝っておきたかった。そういうことって皆さんには無いですか?