一緒に三途の川を渡るのだ

ソラ(空)とキラ(星)
 
2023年05月02日(火)「月で待ってるよ」

 早いものだ。去年の今日、空(飼い犬のソラ)が心臓発作で初めて倒れたのだった。「もう歳も歳だったのだし、1時間も散歩をさせなければよかったなあ。あの最初の発作さえ起こさせなかったら、心臓に腫瘍が有ったとしても、騙しだましでもう少し生きることが出来たかも知れない」
 わたしは今も悔いている。

 勤務明けで帰宅したが、明日は休みということもあり昼間から飲んでしまった。前夜2時間ぐらいしか寝ていないでそれをすると、たいがい30分で落ちる。暖かかったのだろうか、フローリングの上に直接横になって、背骨をグギッとはめ込むと、その瞬間に意識が飛んでしまった。

「父さんはなんであの日帰ってきてくれなかったの? 僕は父さんを探しに外に出たんだ。父さんは庭でいつも草をむしったり、種を播いたりいろんなことをしてたじゃないか。だから僕は庭に出れば父さんがいると思ったんだよ。一人で逝くのは嫌だったんだ。そうだ父さんも悪かったと思っているのなら早くおいでよ、こっちで遊ぼうよ、月で待ってるからね!」

 赤い川の向こうに空くんが居て手招きをしていた。でっかい招き猫のようだなとは思ったが、わたしは「早くあっちへ行かなきゃなあ」と涙を流して泣いてしまっていた。

 ドアが開く音がして、わたしは目覚めた。3時間程眠っていたようだった。妻は「また? そのうち黄疸が出て死ぬよ! 頭打ってない? オシッコ漏らしてない?」と語気を荒げた。
「空くんが月で待ってるってさ、早く来いってさ、一緒に酒飲もうってさ」
 わたしはバツの悪さをはぐらかすために涙を流してみせようかと思ったが、なかなか女優さんのようには上手くいかなかった。そのあと、憐みの面持ちで妻は鋭い指摘をした。
「月で待ってるって言ったの? どこに行こうってのかしら?」
 わたしは思わずたじろいた。確かにそうだ。天国にしろ地獄にしろ、黄泉の国って宇宙の彼方にある訳ではない。三途の川が月の近所だという話も聞いたことがない。ウッ、負けだ、ヤバイ。

 今度「MOON」って曲を書こうかと思っています。
 小林 倫博