宝もの
中年おやじは電柱の無い
  荒野を目指すのでんちゅ〜
 とりたてて「物拾い」を趣味にしているわけではないのですが、まだ十分に使えそうな物が無造作に捨てられているのを見ると、持って帰らないまでも気になってつい手に取ってしまう私なのです。
 その日は軽い気持ちでバイクを走らせたのですが、風の気持ちよさに調子に乗って遠くまで来てしまい、気が付くと私は郊外の田んぼの中に一人たたずんでいました。
 休憩所の、丸太を輪切りにして置いただけの椅子に腰掛けて、ぼんやりと遠くを眺めた後、ふと足元に視線を移すと土くれの中にキラッと光る物があったのです。
 私はそれを拾い上げました。上等の万年筆ように見えました。乾いた土を指でこそぎ落とし、タオルでキュッキュッと磨くと見栄えだけは新品のようになりました。
 結局それは万年筆ではなく「右に回せばシャープペンシル、左に回せばボールペン」というやつでしたが、何ヶ月か風雨にさらされていたのでしょう、金属部分は錆び、内部のメカは砂を噛んでしまっていて、元通り使えそうには見えませんでした。
「飽食の時代なんだなあ」と、私は立松和平さん風につぶやきながらそのペンをまた落ちていた場所に放り投げようとしました。
 その時キャップがスポンと抜けたのです。そしてそこにはゴム印が付いていたのです。さらに驚いたことにその印の文字は、私の姓と同じ「小林」だったのです。
 単なる偶然だとは分かっているのでしたが、なぜか運命的なものも感じてしまい捨てられなくなってしまったのです。というのも丁度その頃、このライター選手権に応募し始めた頃で、私は「書きたい書きたい病」になっていましたから、この拾い物との巡り合いを「ペンを執れ、そして立つのだ!」という神の啓示のように感じたのでした。
 家に持ち帰り「気持ち悪いヨ」という妻を無視し、分解掃除してグリスを注すと、ピカピカのそのペンは私の宝物になりました。