「 いただけないショーケン 」

 嫌な話も、たまにはいい(?)かもしれない……かな?
 最近のショーケンは「言わずもがな」だが、25年ぐらい前にも、わたしはどこかの学園祭で彼に関して実に嫌な思いをしたことがあった。
 まだその頃は彼も、今のように「いっちゃった眼」をしていなかったし「大阪で生まれた女」なんていうスタンダードになり得そうなヒット曲もあった訳だから、まだまだ“まともなショーケン”だったはずなのである。
 その日、わたしはかなり興奮していた。だってショーケンだよ! わたしの世代は“傷だらけの天使”をリアルタイムで観て憧れたし、そして彼は役者としても歌手としても乗りに乗っていたし、すでに超ビッグだったのだ。そんな人と前座とはいえ一緒にライブができるなんて、信じられない気分だった。「アニキー!」とか水谷豊の真似で言いながら駆けよって、サインをもらおうと考えた記憶さえもある。まあそれはさすがにできなかったが、その日は朝からミーハーになっていたのは確かだ。
 コンサートでは必ずリハーサルというものがある。そして複数のアーチストがジョイントする場合、ステージのセッティングを最後に変えなくて済むように、本番に歌う順番と逆の順番でリハーサルをするのが普通だ。つまり前座が一番最後になる。そして一応敬意を表してメインのアーチストのリハーサルを、前座などはありがたく見させていただかねばならないことになっている。あくまで通例としてだから、今はどうなのかは知らない。
 わたしは「オー!ショーケンだ、ショーケンだ、“傷だらけの天使”だ、かっこいいなあ、音程がちょっと悪くて歌は下手だけど“前略おふくろ様”もよかったしなあ、テンプラーズじゃなかったテンプターズだったしなあ、スターだなあ」と本当に憧れの念をもって瞬きもせずに観ていたのだった。
 ところが何か変なのだ。とてもイライラしている様子だったのだ。バックバンドのメンバーはいち早く雰囲気に気付き、黙々と演奏に終始した。
 しばらくするとショーケンがステージ上でがなり始めた。そしていきなりステージから飛び降り、PA席(音響設備がある所)に走り、これまたいきなりミキサーさん(音響操作人)に“蹴り”を入れたのだ。“傷だらけの天使”が“前略おふくろ様”がお世話になるべきミキサーさんに強烈な蹴りを入れたのだ。
 たまげた! 張り手も入れたように見えた。ミキサーさんは失神した。
 後で事情を聞くと、自分の声をステージ上で聞くためのモニター(歌い手の前に置いてあるスピーカー)が良く聞こえないという、たったそれだけのことだったらしい。
 う〜む、わたしは唸った。自分のことのように怒った。放送禁止用語だかなんだか知らないが「奴はキチガイ」だ、と思った。音楽に対する「熱」がそうさせたのかどうか、などということは問題ではない。明らかにショーケンは常軌を逸している、と思った。いただけない気分屋の糞野郎だと思った。

 それ以来、ショーケンが何か問題を起こしてテレビに出る度に「やっぱりな」と思う。かばう奴等もこの際同罪だ。金になる内は骨までしゃぶる、ということなのだろう。わたしは残念ながら大売れしたことがないので、「調子に乗る」「天狗になる」「チヤホヤされて常識が麻痺する」「スポイルされる」といった感覚がまったくわからないから、仮に環境が本人を変えてしまったのだとしても同情する余地を持たない。それ以前に「最低限の人間性さえ欠落した糞野郎」である。どうだ、反論があるか?