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110番の履歴
わたしは生まれて初めて110番した。
事件ですか事故ですか?と聞かれたが、緊張して
「事件である」と答えてしまった。
2015年02月10日(火)「 スカポン事件簿 @ 」

 犬2匹(ソラ&キラ)とわたしとで「スカポン探偵団」を結成した話は先日(12/26「人を見る目」)書いた。 だから朝夕の散歩は、最近では“パトロール”と呼んでいるのだ。
 あ! 馬鹿にしてはいけないよ。ソラとキラはビーグル犬だから、その嗅覚たるやすごいのである。成田空港で麻薬犬として働いていたり、はたまた人間の癌を嗅いで発見したりと大変な活躍鼻なのである。人間の1000倍から1億倍ぐらいの嗅覚らしい。
 なんでそんなに幅があるのかというと、花や化学物質などの犬にとってあまり興味の無いものについては1000倍程度、逆に他の動物が出す(排泄物も含んで)有機物質や食べ物に対してはもう異常に興味があるらしくて、まあだいたいだろうが一億倍ということらしい。パトロールしていてもその嗅覚のすごさを実感させられることが時々あるのだ。

 ソラは5歳になりそれなりに経験も積んでいるので、すっかり落ち着いた主力団員といったところである。が、わたしに似てちょっとドライ過ぎるところがあり、知った人間や犬たちと出逢っても「こんにちは。ハイではさようなら」といった態度をとるので、親として肩身が狭い。がまあ頼りにはなる。いざという時の身体能力が非常に高い。崖登りなども平気でこなす。もしかすると純ビーグルではなくハリア(犬種)の血が混じっているかもしれない。
 一方キラは3歳とまだ若く、何にでも興味津々。一言で言えば超おてんば娘である。異常な食いしん坊で、カレーを鍋一杯、てんぷら油を鍋一杯、キムチ鍋を鍋一杯、越前煮を鍋一杯、ドッグフードの袋を食い破って食べ放題……などなど、なかなかの猛者である。パトロール中も0.5秒の早業で拾い食いをするので油断も隙もあったもんじゃない。 つい先日のパトロールでも、アッと思ったら他所様の庭先に落ちていた節分の豆を、ニヤニヤ笑いながら盗み食いしていた。食べ物ならまあいいんだけど、殺鼠剤を撒いてある畑なども近隣には多いので気が気ではない。鼻が利きすぎるのも危険なのだ。

 さて前置きが長くなったが、わたしは今日、生まれて初めて110番をした。
「首なし猟奇的死体遺棄事件」なのである。2匹の犬がそれこそ嗅覚でパトロール中に見つけたのだ。
 すでにこの段階で気分が悪くなってしまった人は、読むのはここまでで止めておいていただきたい。人間ではなく動物の死骸の話なのだけれど、決して気分のいいものではないからだ。当然ながら、写真は撮るのもはばかられて一切無い。

 4〜5日前の夕方のパトロールで、ソラとキラが突然走り出した。いつも通る場所だったし、また猫かキジでも見つけたのだろうと簡単に考えて一緒に走ったのだ。50mほど走るとキラがしきりに側溝の中を覗き込んでいる。ソラも鼻をひくひくさせて宙を嗅いでいた。ここの側溝はどういう訳かところどころコンクリート製の蓋が開けてあって、臭いの元はどうやらその蓋の無い箇所にあるらしかった。わたしにはまったく臭わないので、開口部を一つひとつ確かめながら歩いた。
 やや薄暗くなってはいたが、それが動物の死骸であることはすぐにわかった。生々しくて色あざやかで、グロテスクではあったが汚らしくはなかった。ただ、奇異であったのはその皮が完璧に剥がされていて、よく人体模型などにあるように筋肉や筋がムキ出しの状態になっていたことだった。これは明らかに人為的な処置だ。
 わたしは犬たちが舐めるほどの距離で臭いを嗅ごうとするので慌ててそれを制し、恥ずかしながら実は半分吐きそうになりながら観察したのである。
 どういう体位ならそうなるのかわからなかったが頭部が見えず、それはタヌキのようでもあり、中型の犬のようでもあった。もしも犬だとしたら……わたしは怒りと恐ろしさで体が震えた。

「おそらく一週間もすれば、誰か他の人が気づいて清掃局を呼び処理を依頼するだろう、だからしばらくあそこに近づきさえしなければ済むことだ」
 わたしは忘れることに決め込んだ。妻子にも近づくなと伝えた。
「おそらくタヌキだ。いまどき…とは思うがタヌキなら毛皮が欲しいと思う奴もいるかもしれない。剥いだ後をそのまま捨てるというのは許しがたいが、車に轢かれたタヌキだったのかもしれないし、チャンチャンコになったのならタヌキにとっても本望だろう」
 わたしは自分を無理やり納得させる考え方をすることにしたのだった。しかし犬たちはそれでは納得できない様子だった(ここは冗談を言うところではない)。近くを通るたびに、特にソラが執拗に悲しげな表情をみせるのである。もしかして彼は、匂いでそれが誰の死体なのか分かっているのではないかと思った程だ。嘘つきなわたしだが、これは本当の話。ソラは絶対に涙を流していたと思う。


 で、ここからは今朝の話。
 久しぶりに温かい陽射しを浴びて、体も心もほぐれていた。ついつい歩きすぎてパトロールはすでに2時間を越えていたが“10時までは犬のための時間”と諦めているので好きにさせていると、やっぱりというか案の定というか2匹は件の現場へ通じるルートを選んでいた。
 時々わたしの顔色を伺っている。わたしは100m手前の別ルートへ折れて帰路につくつもりでいたのだが、その分岐に到達するやいなや犬たちは一斉に走り出した。ものすごい頭脳プレイである。
 中型犬とはいえ、2匹が本気で走ると止めるのはかなり難しい。わたしは覚悟を決めて一気に遺棄現場まで走った。
避けてばかりもいられない。有無も確かめなければならない。明るい光の元でこそ確かめるべきでことがいくつかあるような気持ちにもなっていたのだ。
「寒さのおかげでまだほとんど痛んではいないだろう。それが唯一の救いだナ。供養のつもりでもう一度現場検証だ。団長の命令にはちゃんと従うんだぞ、いいな!」
 わたしは2匹の犬部下に語りかけた。

 内容を手際よく伝えるため、家に戻ってからヤフー地図で遺棄場所の番地を確認し、5W1Hのメモを取って、110番をした。
1.確認のため40分前に再度見にいったが、やはり色や毛並からしてピンシャー系の犬のようであること
2.どう考えても、おそらく頭部が切断されているように見えること
3.後ろ足首部分に鋭利な刃物でぐるりと切ったあとがあり、そこから皮を剥いだと想像できること
4.中身不明の半透明ビニール袋が横においてあり、あくまで不明ではあるがそれは液体混じりであること
5.動物の死骸はたくさん見てきたが、今回は常識的には考えられない死体の状況であること
6.動物虐待及び猟奇の犯罪性を視野に入れて調査をしてもらいたい旨

 
 遺棄死体は夕方にはもうなくなっていたが、その後県警からは何の連絡も無い。「調べております」でも「分りませんでした」の何でもいい、一言ぐらいあっても良さそうなものだが、それが現在の警察の常識なのだろうか?
 犬の首をはねて足首を切り、そこから皮を剥いで側溝に捨てるような奴が近所にいるのである。そいつは、おそらく近いうちに人間にも同じことをしたくなるだろう。そして捕まってもサラリと言ってのけるのだ。
「誰でもよかった。人を殺してみたかっただけだ」と。

 我らが探偵団の「スカポン事件簿」は、さらにさらにつづく。