本当に死んだのか?
 
2023年09月18日(月)「ソラ君の命日」

 愛する者に対して抱く「妄想」は楽しいものだ。わたしは昨夜遅くまで、ソラ君の事を想いながら妄想に耽っていた。

「1年経ったんだなあ。早いもんだなあ。霊でもいいから会いたいと思っていたけど、結局一度も霊もお化けも出て来なかったなあ。きっと一人で三途の川を渡って行ったんだろうなあ。もうすぐわたしも行くから、向こう岸で待ってろって言ったのに、小便したくてスタスタ行っちゃったんだろうなあ。そうだ、もしも神様がいい人だったら『一年間一度も忘れることがなかったから、特別に現世に返してあげよう』とか言って、目が覚めたら横に寝ているなんてことがあるかも知れない。早起きしなくっちゃ。すぐに散歩に行きたがるだろうなあ。外でしかオシッコが出来ない奴だったから、結局ずっとオシッコを我慢している一生だったんだろう。かわいそうなことをした。漏らすこともなかったからなあ。散歩に出るときっといろんな人に会うよなあ。『あれ、ソラちゃん? 亡くなったんじゃなかったっけ?」なんて聞かれるよなあ。何て言おう、姿形がそっくりのビーグルをまた買ったんですよ、て言ったら薄情だと思われるし、中国でクローン犬を作ってもらったんですよ、って言うと120万円ぐらいかかるから、金持ちだって誤解して、闇バイトの連中が襲って来そうだしなあ。まあその時は射殺してやればいいか! キラはどうするかなあ? びっくりして逃げるか、喜んで飛びつくか? 彼女は臆病だからなあ、逃げるんだろうなあ。愛が深いからって神様が現世に戻してくれた、なんてことになるとテレビや週刊誌も放っておかないだろうし、やばい、忙しくなるなあ。嫌だなあ。忙しいのは嫌だ、念願だった旅にも行けなくなる。ソラ自身が『この世に戻してくれなくても良かったのに』と思った途端に、神様はまたソラくんを取り上げてあの世に戻してしまうんだろうか? そうだろうなあ。 ソラ君にとってはそれはさらなる不幸だなあ。『オイラ、この世に戻りたくなかったよ』とか言って泣くんだろうか?」

 目が覚めて、左手で布団の中をまさぐったが、ソラ君は居なかった。わたしは起き上がり水を飲んで、線香に火を付けて骨壺に手を合わせた。みんな笑うだろうが、妻よりも、娘よりも、誰よりも、わたしはソラ君を愛していたような気がする。
 小林 倫博