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某月某実  

「白いパラソル」

「あっ、お義母さん、ざるソバのツユに入れるワサビを買うのを忘れましたワ」
「何言ってのよ、ざるソバにはカラシでしょ? 家にあるわよ」
「エーッ? 長ネギのきざんだのとワサビでしょう?」
「イイヤ、九州ではず〜っと昔からざるソバにはカラシですよ」
「ウッソー! 信じられない。想像できない。気持悪リィ〜! 馬ッ鹿みたい、変態チック、ナメコ人間!」
「良子さん! あんたって人は名前は良子だけど、ほんとに性格悪いわね、口が鬼だわ、口が……」

 良子はもうそれ以上、義母と言い争うのは止めにした。「きっと義母はモウロクしているに違いない、どの道そう永くはないのだ、ざるソバに入れるのがワサビだろうがカラシだろうがいいじゃないか、いやカラシだというならカラシで食って入院してやろうじゃないか」そう思ったのだった。
 そのぐらいは我慢しないと遺産の2000万円はもらえないぞ、と白いパラソルの下で計算したのだった。