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高校時代のあだ名は「チュウさん」でした

2020年10月03日(土)「最後のヒグラシ」

 夕方の犬散歩で少しだけ遠出をして裏山に登った。今時の17時と言えば、もうすっかり陽も落ちて薄暗い。右側に農業用のため池があり、ちょっと下り気味の坂道にさしかった所で「カナカナ」と一声だけ鳴いた。気配を消してその場でじっとして耳をすましていたが、それだけだった。
 幻聴だったのかも知れないなあ、と考えて去ろうとした時「カッナ、カッナ」と幾分間の空いた第二声、10月に入ってからヒグラシの声を聴くのは経験上初めてだったので、すこし感動した。しかし第三声は無かった。

 残酷だが、わたしは蝉が最後の力を振り絞って2回鳴いて、そして力尽きて木から地上へ落ちてゆく絵を想像した。出かける前にワインを1杯だけ飲んだので、そのせいもあってファンタジー爺さんになっているようだった。というと聞こえはいいが、ただの妄想爺さんである。
「あの蝉は竹内結子の化身かも知れない」とか「何か言いたいことが有ったんだろうか?」とか「本当のことを誰かに伝えておきたかったんじゃなかろうか?」とかは当然考えたが、すぐに「なんでわたし?」と正気に戻ったりもした。アル中であるチュウ。

 しかしまあなあ、あと10年もすれば、わたしも認知症が始まり、そのうち右も左も分からなくなって、自分のウンコを壁に塗ったくったり、お団子を作ってどうぞとか言ったりして遊ぶんだろう。そして家族も手に負えなくなって、遂には介護施設に入れられて、下の世話までぜ〜んぶ人任せで、そのくせ女の介護士さんのお尻を触ってただただニヤニヤ笑ってるようになるのだろうなあ。これは妄想じゃなくて予想の範囲だよなあ、やばいよなあ。ほんとヤバイ。

 散歩から帰宅し、2杯目のワインを飲み干すと、わたしは決心した。認知症が進んでいよいよダメだこりゃとなったら、少しでも力が残っている内に自決しよう、後始末に必要な金ぐらいは、まあへそくりで大丈夫だろう。
 3杯目のワインを飲み干すと、頭がちょっと難しい方へ行きたがっていた。「自殺」と「自決」と「自死」とはそれぞれ何が何処が違うんだ? 
 もう一回言ってみよう、アル中であるチュウ!

小林 倫博