砂漠で見つけた江川 」

  このタイトルだと、まるでわたしが砂漠を旅する途中に水脈を見つけた、というような広大なイメージだがまるで違うのだ。アメリカ話、第4弾(余談)なんちゃって。
 
 ちょっと骨安めに……もとい、遊び呆けついでにとことん遊んでしまおうぜ、ということになってラスベガスへ行った。大儲けしてマーチンとギブソンのギターを10本ぐらい買って帰ろうという腹づもりである。
  降り立った空港は気温42度、わたしは鹿児島生まれなので暑さにはめっぽう強いつもりだが、その時だけはスルメになるかと思った。おまけに乗ったタクシーに冷房がなく、スルメどころか危うくツタンカーメンになりそうだった。
  が、ホテルの中はオアシスだ。いくつかのホテルがすべて地下道でつながっており、1度ホテルの中に入ってしまえば外に出ること無くずっと生活できてしまうところが凄い。なので「 今日の天気 」とか「 今日は何日 」とか「 今何時 」とかの感覚が無くなって行くのだ。もっともネ、砂漠だからね、雨は降らん。
  バクチ場であらゆる賭けをし、腹が減ればレストランで飯を食い、眠くなれば階上の部屋で少し眠ってまた階下のバクチ場へ戻る、そういう生活。ただし持ち金が続けばの話である。
  わたしは貧乏なくせに、こう見えてもけっこうギャンブラーなので熱くなると先が見えない。「え〜い、最悪になったら食堂で皿洗いだ〜」というつもりで遊ぶが、案の定すってんてんになった。ギターを買うどころじゃない。
 
 しょぼしょぼと1ドル硬貨をなるべくゆっくり入れながら、スロットマシーンでしけた遊び方をしていると、なにやら後ろで「オ−ッ!」と声があがった。振り向くと体もでかいが耳もでかい男が“ブラックジャック”のテーブルで小鼻をふくらませながらほくそ笑んでいた。おまけに日本人である。そして何人かの同じ日本人らしき集団がその彼を遠巻きに見ていた。
  江川だった。ドラフトで阪神に1位指名され「巨人じゃなきゃ嫌だも〜んだ」とアメリカ野球修行へ行った江川だった。また同じテーブルには女優の沢村貞子さんもいたようだった。

「 見〜つけた!修行してたんじゃなかったのか、え!?」とか言って写真でも撮って、フライデーとかに売ったろかいと思ったがカメラもなにももっていなかった。しかしまあ、江川ぐらいの人になると追っかけまわされて大変だろうなあ、と同情しつつ軽くバットを、もとい、レバーを引くとジャラリンと100ドル出てきたのだ。1ドルが180円ちょっとの頃だから嬉しいじゃないか。しかし、その後江川からヒットを打った気分になってますます入れ込み、調子に乗り過ぎてオケラになってしまった。
 ユイ音楽工房のカリスマ後藤はスロットマシンでも1000ドル出して笑っていた。なんて社長だ! とことんツイてる男なのだった。かなわん、かなわん、かなう筈が無い。
 
 ロスに戻り、ツアーマネージャーのSさんに20万円の借金をしたのは言うまでもない。借金というのは膨らんでゆくものだと知ったアメリカ旅行だった。江川め(なんでじゃ)。