祭り 2

兄貴、暇ですねえ〜!
 人生は小指の先ほどの出来事で、大きく大きく変わってしまうものだということを、ぼくは中学生で体感してしまった。
 転校生だったぼくは、クラス中の女の子にモテモテで、今思えばただ坊主頭が珍しがられただけのような気もするけれど、送られてくる秋波をかきわけて……てな具合だったのだ。
 そんな女の子たちの中でもとりわけ美人の3人組がいて、ぼくが忘れ物でもしようものなら我先にと貸してくれたりして、うるさいぐらいに親切にしてくれるのだった。
 3人とも「新体操クラブ」に所属していて、放課後などクスクス笑いながらレオタード姿でぼくの周りをウロチョロするものだから、朴としたぼくでさえついその気(?)になったりしたのだった。
 そしてある日、3人娘はそわそわとぼくに近づき「お祭りに行かん?」と言ったのだ。
 ぼくはガハガハな気持ちを精一杯押さえながら「まあ、よかよ」と答えた。
「祭りの夜」何〜と甘美な響きなのだろう。求めるもののすべてがそこにあるような。
 そしてその夜が来た。
 綿菓子、ビー玉、金魚すくい、お面、提灯、チョコバナナ、たこ焼き、イカ焼き、風鈴屋。祭り囃子に身を躍らせながら、ぼくは極彩色のトキメキの中を約束の場所へ急いだ。
 30m先に3人を見つけた時、その艶やかな浴衣姿に思わずうっとりしてしまった。
 そして10m、5m、2m……それでも彼女たちは何故かぼくに気付かない。
「オイ!」と声をかけた。
 瞬間、彼女たちの口が四角形になった。そしてその直後、3人は今来た方へと駆け出して行ったのだ。
 5秒後に、ぼくはやっと訳を知った。ぼくは「ステテコとTシャツ」姿だったのだ。
 2度とぼくに近づくことがなかったその「惜しい悔しい3人娘」は数年後スチュワーデス、バレリーナ、アナウンサーへと華麗に変身していったのだった。
 ステテコが1番涼しいのに……、ぼくは今でもあの「祭りの夜」が納得できない。