「 丸大ハムのCM 」

「水戸黄門」の再放送を観ていたら、悪役の田中浩さんが出てきた。丸大ハムのCMで「わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい」と言っていた人、といえば思い出す方も多いと思う。(惜しい役者さんを亡くしたと思う)
 知らない人のためにちょっとだけ説明させてもらうと、ごっつい顔の田中さんと小さな男の子が焚き火を囲んでキャンプしてる訳ね、たぶん親子の設定。で、熱く焼けたフライパンでハムをジュージューと焼きながら、例の「わんぱくでもいい……」の台詞が入る。
 このCM中、ずっとインストのBGMが流れていたのだけど、ある時リニューアルすることになり、わたしに依頼がきたという訳なのだ。そして新しいバージョンでは歌入りの曲が採用されることが決まっていた。作詞家の伊藤アキラさんが「四角い箱から、まるい愛、詰めきれなかったやさしさは箱の表にそっと乗せ……(ちょっと不確か)」という詞を書き、わたしがメロディーを付けた。
 そして当初はわたし自身が歌う予定であったのだ。
 ところがスポンサーの意向だったのか、急遽歌い手が変更になり、田中浩さん本人が歌うことになったのだ。わたしの歌ではきれい過ぎる、やさし過ぎる、ひっかかりが無い、ということだったらしい。どこか粗野で、素朴な父親が息子のために歌っている、といった雰囲気が欲しいということだったのだろう。
 少し悔しい思いもあったが、わたしは自分にそういう部分が欠けていることは知っていたし、できあがりを聞いて大納得したので文句どころか勉強させてもらったという気持ちが強かったが、一方でヒットを逃したという気もして複雑ではあった訳だ。
「水戸黄門」で最後まで悪役の田中さんを観ながら「実際はいい方だったなあ」と思い出し、これまた妙な気分になってしまった。

 CMの仕事は結構したけれど、同じような理由でわたし自身が歌わないことになった曲もいくつかある。どうしても、どうあがいても「力強い歌い方」というのが苦手で、わたしが歌うとやさしいというか、ソフトというか、軟弱になってしまうのだった。かくして、フヨウグループのCMは円広志に、映画「ワイルドギース」のテーマ曲は新人の名も知らぬ男性歌手に盗られた。あはは。
(追記)
 逆に甘くやさしい歌い方でやって欲しい、ということでわたしが歌った「東鳩“果実園”」というお菓子のCMは恥ずかしいほど軟弱で、もし現在こんな歌い方をする歌手がいたら石を投げつけそうである。今でもわたしの妻はわたしをやりこめたい時などに「トーハト〜♪カジツエーン〜♪」と大声で歌い、冷やかしながらわたしの回りを走り回ったりたりする。失敬なやつだが、わたしは確実に悶絶して果て、1時間ほど目覚めない。妻は天敵だ。