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クソ、クソ言ってると……
 
勝手に写真を使って申し訳ない 
2020年06月24日(水)「 クソはまずいよ 」

 5〜6年前、職場に島津という22歳ぐらいの男がいて何かにつけて「クソ」を連発していたのだ。ま、待て、糞ばかり垂らしていた訳じゃありませんよ。
「あんな女、クソですよ!」とか「チェッ、上がクソだと下は大変なんだぜ!」とか「クソが!」とかそんな感じだ。つまり、口からクソがやたらと出てくるのである。ま、待て、それも汚えなあ。

 九州ではそんな言い方はしない。まあ「馬鹿な女だ!」とか「馬鹿な上司が……」てな感じだ。他に思い当たる言葉が無い。もちろん「クソ野郎」とかは言うが他人を指してクソとは言わない。口の悪さではピカ一の関西にもそういうクソは無さそうだし、その他も知る限り同様。どうやら「クソ」は関東近辺だけのもののようである。
 千葉県出身の妻に聞いたところ「そういえば昔から言うわねえ、ごく一部のちょっとヤンチャな若い人たちのような気がするけど」とのこと。そうなんだネ……。

 “石原さとみ”の「アンナチュラル」というテレビドラマに一時期のめり込んだが、劇中“井浦新”扮する「中堂さん」がやっぱりクソクソ連発していた。古いドラマなんだろうが、わたしが観たのは去年の暮れの一挙の再放送だから、わたしにとってはまあ最近のことで、それはそれはとても新鮮だった。島津のクソは下品だったが、中堂さんのクソはこれがなんとも格好良くてねえ、こんな男になりたかった〜ってんで真似ている内にマジで癖になってしまった。

 駅の階段で後ろから押されたりすると「クソが!」と言ってしまうのだ。もちろん聞こえないほどの音量だがなんとなくすっきりする。歩きスマホしてる奴に「クソだろお前!」とか言うと溜まっていた物を出した感があり爽快だ。このへんは糞と同じかも知れない。
 オリジナリティは大事だと思い、思いつきで時々「ションベンが!」と言ってみたことがあるが、やはりクソ程のスッキリ感も迫力も無い。良く分からないがクソはたいしたもんだ。さらに便利でもある。
 人としてあるまじき事をする奴はみんなクソだ。若い女を殺したりする奴はもちろんクソだ。いやいや若い女に限らないけどさ。中国もクソだし韓国もクソ、ヤクザもチンピラもクソ、コロナもクソだし豚インフルエンザもクソだし、思えばこの世はクソで溢れているのである。しまいには散歩中犬が糞をすると「クソが!」と言い、自分が糞をした後も「クソが!」と言うようになってしまった。脳ミソをほとんど使わなくてもやって行けるのでこんな楽ちんなものは無い。クソ病である。

 先日電車に乗ろうとホームできちんと並んで待っていた。降りる人々があらかた降り終わり、サアってんで乗り込むと、一人だけチンピラ風の男が慌てて人を掻き分けて降りようとしやがった。でわたしの肩にぶつかったものだから「クソが!」と声に出てしまったのだ。
 男は豹変し、わたしの喉仏を爪をたてて握り「ジジイ! 殺すぞ!」と怒鳴った。回りが一斉に散った。

 喉仏に残った赤い爪痕を見ながら、妻は顔を青ざめさせて嘆いた。
「パパ、クソはまずいよ、もう一回言ってたらほんとに殺されてたかも知れないよ…。変なのが多いから、もう止めなよクソは!」
 わたしは当時感じた恐怖を一瞬想いだし、まあなあ、と思った。
 わたしはすっかり弱腰になった自分が恥ずかしかった。若い頃は身長差が20cmあっても喧嘩に勝つ自信があったが、今はそうはいかない。情けない限りだ、年寄りにはもう照れ笑いしかないのだろうか。
「そうだな、クソは不味いな、食ったことないけどな」
 妻は笑いもしない。クソ!
小林 倫博