「ハッピー・ストーカー」
 大手旅行会社のITサポートセンターに勤務する中島は、夜間作業の合間に憧れの女子社員の椅子にそっと座ってみるのを楽しみにしていた。ある日人事ルームでの作業中、中島はデスク上の「上訴書類」の中に山口由香の名を見つける。由香が激しいストーカー行為を受けているらしい。しかも犯人は社内の人間らしい。中島はなんとか犯人をつきとめ、撃退してやろうと決意する。
「ストーカー対ストーカーの戦いだぜ」中島はケロケロと蛙のように笑い、由香の膝かけの匂いを嗅いだ。吐きそうにはなったが決意は揺らがない。



「8ビートで吹いて行く風」
 元プロのシンガーソングライターというキャリアを持つ大林は、現在はあるレコード会社に直結している「音楽スクール」のチーフディレクターだ。教材の開発や売上UPのための新規講座の企画、新人歌手の発掘なども手掛けている。ある日、一人の少女(綾音)が大林を訪ねてくる。17歳の美少女は「歌手になるために生まれてきた」と言った。大林は少女と話すうちに彼女の母親の名を知る。それはかつて大林のもとを去っていった女の名だった。
 大林は自分のそれとまったく同じ造りの綾音の二重まぶたを見つめながら、彼女を歌手にするための作戦を練り始めた。



「検索」
 父親の葬儀を故郷で終えた後、林修三は老いた母親を東京へ連れて行く報告と、父の生前に受けた世話へのお礼をかねて近隣の家々を回った。そこで修三は予想だにしなかった依頼を引き受けることになった。3軒先の幼な馴染み「由希子」の消息をつかむことを引き受けてしまったのだ。同時に由希子の出生の秘密を知ることともなったのだった。由希子がスチュアーデスをやめた後の消息は今は誰一人知るものはいないようだった。
「もし自分が由希子と結婚していたならば……」修三は想像しつつ、とりあえずインターネットの検索エンジンに「由希子」と入れてEnterキーを叩いた。



「ロバで来た男」
 その老人は自分のHONDAスーパーカブを「ロバ」と呼んでいた。尻尾のように見えたのはGPSのアンテナのようだった。アメリカに再戦をいどんだ政府の一部の輩のせいで、日本の国土は再び焦土と化していた。そんな中、キルムとハイムを中心にした、15〜16歳の少年たちを中心にしたゲリラ組織「根無草(ねなしぐさ)」は、中国とアメリカの両方を敵にまわし悪戦苦闘していた。ロバで来た男は低いしゃがれ声で笑うように言った。
「ずいぶん弱そうな名前だ、“ねむそう”とも読めるぜ、ヒッヒッヒッ」
 キルムとハイムは音も立てず、その男の首にボーガンの矢先を突き付けた。




            





ぼくの行く場所