「 煙の中に 」


  一時期、来生たかお、佐野元春、林哲司、わたし、この4人で作家事務所を設立する話が持ちあがり、チラシまで作って具体化したのだけど佐野さん、来生さんが立てつづけに売れてしまって、ついにその話は流れてしまった。
  けれどその後も来生さんにはずいぶん仲良くしていただいて、ジョイントコンサートが何回か実現した。声質が似ているということもあって、持ち歌を交換して歌ったり、コーラスを付け合ったり、とありがたいフォローをしていただいたのだった。来生えつこさんの詞もすきだったし、たかおさんの声も、ふさふさの多すぎる髪の毛もうらやましいものだった。
  ある日ジョイントコンサートで二人のからみが終わり、わたしがステージに残って自分の歌を歌っていると、ステージの袖から薄くスモークが流れてきて、ステージの上に漂い、そして光をやわらげていい雰囲気になった。
「おお! 聞いてなかったけど、こころにくい演出じゃないか、スタッフもやるもんだなあ!」と感心したのだ。
  わたしはそういうのにすぐに感激する質なのですぐに反応してしまうのだ。で、ステージ袖のスタッフにさりげなくおじぎをしようと、歌いながらではあったけれど上手の方を覗き込むように見た。 横飛ばしライトの強い光が目を刺したが、逆行の中に確かに人影が……?
  来生たかおさんが煙草を吸っていた。その煙が漂ってきていたのだった。彼は曲と曲の一瞬の間にでも煙草を吸いたいほどのヘビースモーカーだったのだ。そして実際に自分のコンサートでもバックメンバーの紹介時などには袖で煙草を吸うとのことだった。
  しかし、あの日逆光の中で見た来生さんは明らかに「ここはスモークが出るべきタイミングだ」と確信をもってブハーッ、ブハーッとわたしのために煙をはいているように見えたのだが、う〜む、良く取りすぎなんだろうなあ。