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「カブト虫のサンバ」は売れる?

こんなに上手くいくとは

少年の顔をした少年は今や貴重だ
2016年07月05日(火)「 カブト虫 」

 朝5時50分、犬の散歩に出発する。2、3日続いた猛暑日が嘘のような涼しい朝だ。犬たちの動きに“切れ”がある。
 近所の大公園「創造の杜」を抜けようすると、何かをしきりに叩く音がした。回り込んで覗くと、2人の少年が虫網の柄で外灯の鉄柱を叩いていた。
「もう蝉がいましたか?」
「いいえ、カブト虫です。てっぺんの傘の上にいます。時々動くので生きています。角があるので雄です。絶対捕りたいです」
 犬連れだと子供たちが警戒しないので嬉しい。わたしはキラキラ輝く4つの目玉に笑顔を返した。見上げると、小ぶりとは言え確かに雄のカブト虫が、外灯の温もりにしがみつくような格好でそこにいた。

 外灯の高さは5m強、2本の虫網を繋いでも届かない。ましてや少年たちよ、小石など投げてみても当たるわけなどないのであるゾ。
「長い釣竿でもあればなあ」
「家にはあるんですけど、取って戻ってくるとなると……学校に間に合わなくなりますから……」
「そうだよなあ。ところで君たち、兄弟なの?」
「違います、友達です。昨日のうちに約束をしてて……絶対見つけると誓いあって……」
 “登校前に虫捕りをする少年たち”というのにわたしは少し感動した。そして、小便とクソのことしか頭に無い犬共を近くの杭につなぎ、わたしは彼らに力を貸すことにしたのだ。感動の機会を見捨てては「虫捕り名人」の名が廃るのである。

 丈夫な鉄柱といえど揺さぶり続けていれば次第に振幅が大きくなり、いかにカブト虫が6本の足でふんばっていようとも、必ずや振り落とされるはずだ……わたしはそう考えたのだ。謎の肘痛はいまだ癒えてはいないが、力を効率よく鉄柱に伝えることと、揺れ始めたらその隙に付け込むような狡猾な力配分を心がけたのだ。
 図星であった。鉄柱が弓のようにしなり始めて1分、寒さに硬直したその昆虫は、飛んで逃げることもせずただただ真っ逆さまに落ちてきたのである。当然の大歓声だった。

 落下してくる虫を見ながら、わたしはAIKOの「カブト虫」を歌っていた。♪生涯 忘れる ことはないでしょう♪という一節が特に好きなのだ。
 歳のせいだろうか? わたしはふと、今夏初のカブト虫をゲットして有頂天になっている少年たちに感謝して欲しくなった。だってわたしが通りがからなかったら、自力では捕れなかったんだかんな〜!
「オジ(−)さんのことは生涯忘れることはないでしょう」と言われたりしたら涙を流してしまうかもしれない。因業なジジーで何が悪い!ケッだ。そのためにはだなあ……。
 例えばカブト虫を2人から強引に取り上げて、目の前でムシャムシャと汁を散らしながら食べてしまうとか……? がだ、そういうのは生涯忘れることはないかも知れないが、トラウマになるよなあ。それに報復手段として少年たちがわたしの犬をいきなり食ってしまうというすさまじい事態にもなりそうな気がしてなあ、……残念ながらわたスには出来なかったですバイ。

 ♪生涯 思い出す ことも無いでしょう〜♪