「 ジュディ・オングの後光 」

「 芸能界にいて、いろんな芸能人に会っただろうけど女性で誰が一番きれいでした? 」とはよく聞かれることだ。そんな時、わたしはもう間髪入れずに「 ジュディ・オング イズ グレイト 」と答える。
  TBSで「愛の殺意」という13回連続ドラマの音楽担当をした折りのこと、音楽自体は外のスタジオで“ ムーンライダース ”と一緒に録音するのだけど、それ以外にもいろいろある訳で、毎週次回の映像を見ながら音楽を挿入する箇所と秒数の確認・打ちあわせなどをしなければならないわけだ。
  一般の人より先に次のオンエア分を見れるわけだから、得のような気もするけれど、そんな優雅なものでもなくて結構大変。 ほとんど他の仕事、例えば曲作りとかライブなんて一定期間できなくなるし「 愛の殺意 」では曲はすべて書き下ろしで、なるべく同じ曲の使いまわしは止めようという方針だったのでけっこう苦労したのだった。
  とはいってもどうしても遊びたい気持ちもあるので、主題歌もわたしが歌っている関係で、無理矢理登場シーンを作ってもらってクラブ歌手の役で登場させてもらったりした。クラブ歌手だぜ、イカすだろ。
  で、めでたく中野良子さんと共演ということに勝手に思い込んでいたのだけど、実際は彼女と竹脇無我さんが飲んでる後ろで歌うだけだったりするからがっかりだが、遊びだからこれでいいのだ。
  中野さんはもう思わずそのほっぺに触ってしまうぐらい(触ってないけど)肌が柔らかそうで美人だったし、上品で小顔でものごしも柔らかく理想の女性像だった。けれど記念に撮らせてもらったツーショットの写真をどこかへなくしてしまってからは熱が冷めてしまった。ファンなんてこんなものよ!
  で、そんなわけでその時期TBSにはよく出入りしたというわけである。
 
 ある日、珍しく早めに打ちあわせが終わり、社員食堂というところで飯を食ってみようということになってマネージャーとでかい面をしてズカズカと踏み込んで行くと、奥の隅のコーナーのあたりが薄ぼんやりと明るいのに気が付いた。 回りが暗いわけではない、 社員食堂だからムードなんかいらないのだ。普通に明るい食堂なのだが、そこだけが妙に輝かしいのだ。どうやら照明の関係などではないらしい。
  目をこらしてよ〜く見ると、一人の女性が椅子にかけて台本のようなものを読んでいる。白いドレスの後ろからは確かに光が出ていた。
  ジュディ・オングさんだった。光の方は本当で、確かに出ている。後光かもしれない、といいはるわたしに対してマネージャーはいった。
「 電飾、電飾、ステージ衣装の電飾がつけっ放しなんだ〜よ 」
  しかし豆電球 の光でも決してなかった。だいたいそんな電飾衣装を社員食堂に着てこないだろ! もしかするとドレスの繊維に発光塗料みたいなものを混紡してあるのかも知れなかった。 がしかし、わたしはやっぱりその光は ジュディ・オングさんの後光だと思いたいのだった。美しすぎるのだ、美しすぎて後ろの空気が燃えているのだ。(説得力はない)
  その後、何度もそのシーンは夢に出てきて、ますます「後光説」がわたしの中で固まってしまった。いまでもきっとそうに違いなかったと思っている。
 
 世の中には信じられないこと、理屈で解明できないことがまだまだいっぱいあるのだ。
  雨の夜、近所の墓地の近くで、光る白い服の女の子をはっきり見たことだってあるんだから、わたしは……、う〜ん、それはまた別の話だな……。


(後記:2015.03.03)ジュディ・オングさんといえば今や押しも押されぬ大版画家として日展で連続特選をとるほどの方だが、わたしが見た後光というのは上記の話の数年後に、彼女にそうした版画家としての未来が開けていることを暗示する光だったのではなかろうかとやはり後年思った。
 街中を歩いていても時々だが背中から尻のあたりが光っている人物を時々見かけるが、まさか蛍の生まれ変わりじゃないだろう。最近では広瀬すずとかいう人。
 残念なことに自分を見てももう何も見えないから、まあわたしの人生もこの辺で終わりだなあという確信はあるネ。