いつまででもフワフワしてて見せるぜ
筋金入りの軟弱人間なんだぜ〜!
 先日、防災研修というものに参加した。実際に消火器で火を消し、消火栓放水を体得するという本格的なものである。
 場所は御殿場そして快晴、おまけにせせらぎの音が聞こえる。せっかくの休日に……とうらめしい気にもなったが「まあ、火も水もあることだし」とアウトドア気分に切り替えて、前向きに取り組むことにした。
 研修の中身はというと、参加者がいくつかの班に分かれ、その班の中で各人が指令係、消化係、避難誘導係となってさらに相互交代しつつ訓練するという誠に実戦的なカリキュラムになっていた。
 ところが何回目かの交代時、この50歳寸前の私に回ってきた役柄?は、なんと「愛ちゃん」だったのである。
「愛ちゃん」はホテル宿泊中に火事に見舞われ、父親とはぐれて恐くなり、自動販売機の裏の隙間に隠れてしまう4歳の女の子である。
 頭を掻いてテレ笑いしている私に向かって、消防署の教官は強い口調で言った。
「真剣にやってくださいよ〜、大事な役ですからね〜。歩き方やしゃべりかたもね〜」
「はあ? しゃべりかたもですか?」
「そうですよ〜、誘導員が来たら『らしく』振舞ってくださいよ〜、臨場感、臨場感!」
 かくして私は自動販売機の裏で体を縮めることになったのである。
 火災警報がけたたましく鳴り響く中「火事だ、火事だ!」の大声と、バタバタという大勢の足音が近づいてくる。そしてついに一人の誘導員が私を見つけて叫んだ。
「お嬢ちゃんいくつ? お名前は?」
 私はクライマックスを迎えた喜びに震えながら、いい歳をして見事に演じ切っていた。
「愛ちゃんデチュ〜、4歳デチュ〜」
 誘導員の点目を見て、私は心から満足した。私の中で何かがはじけたようだった。
 妻は、近頃、朝私を起こす時「愛ちゃん、愛ちゃん」とささやくように呼ぶ。うっとりとした目で「ハ〜イ」と答える私が可愛いのだそうである。う〜ん、アブナイ。