ドライブ
よく走ってくれたよなあ
ありがと、スターレット君
 妻が子供を産んでくれた? ので1ヶ月の暇を出した。ご褒美の気晴らし産休という訳だ。育児はタイミングよく失業したぼくが担当、生活費は退職金を食いつぶすことにして「まあ、お互い少しのんびりしようや」ということになった。能天気な夫婦である。
 妻はその1ヶ月を利用して自動車教習所に通い、運転免許証を取得した。そしてその翌月、タッチ交代してぼくも免許を取った。
 中古の真っ赤なクーペを手に入れて、さあドライブだ。初乗りには遠すぎる気もしたが免許持ちが2人もいることだし大丈夫、ということで目的地は中禅寺湖にした。
 心ウキウキ、胸はドキドキ、今日は楽しいドライブ〜♪……ってなもんだ。
 最初はぼくが運転した。国道122号線をグイグイと北へ走る。快調に飛ばしていた。あふれる笑みを期待して妻の顔を覗く。
 ゲ〜ッ、顔から100本程の針が、恐怖の針が飛び出しているではないか!
「ブレーキ踏むのが遅いのよ、車間が狭いのよ、下手くそ、鈍いんじゃないの、ヒーッ」
 妻は足を突っ張り、手に汗して頬をピクつかせていた。に?ぶ?い? カチンときたぼくはスピードとボルテージをさらに上げる。
「あ〜! 赤よ赤」「わかってるよ、バーロー」「バーローって何よ、本当に信号見えてんの、バーロー」「ウッセエンダヨー」
 二人の人格が壊れていった。魔の『ののしり合いモード』に突入してしまったのだ。
 ぼくのイライラは頂点に達しもう何も見えない。そしてついに赤信号を突っ切った。
「ギャ〜!」妻は全身から針を出し、ヤマアラシ女になってしまった。
 そしてお互いクタクタになって中禅寺湖に到着、無口な二人を駄目押しのように赤ん坊のゲロ地獄が襲ったのだった。
 嗚呼〜、たのしいはずの初ドライブが……。
 帰路は妻が運転、そしてぼくがハリセンボン男になった。