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補修セットをたまたま忘れたのさ

エビ爺さんたち

100m漕いで終了

切り裂きジャックだ

変なの!

超デカのバナナケース

不気味な金曜日
2016年05月13日(金)「13日の金曜日」
 
 5時に起床、6時16分の電車に乗って木下(きおろし)へ向かう。 晴天、無風、気温22度、絶好のカヌー日和である。ゴールデンウィークも無関係だったし、今日の休みも2週間ぶりだが、この天気はどうだどうだ! もうもうお爺さんはな〜んでも許しちゃうもんね〜!

 7時47分、木下駅着。利根川の出発予定地点へ向かう。平日だからかバス釣りの連中はいない。その代わり地元の暇人倶楽部の老人連中が川エビ釣りをしていた。出している竿も糸も短いので、こちらとしてはとてもありがたい。いちいち漕行コースに気を使わないで済むのだ。みんな互いにヒャラヒャラと笑いながら、あたかも完成を待ちわびるようにチラチラとカヌーの組み立てを見ていた。

 40分で組み上げて川へ担ぎ下ろした。忘れ物が無いことをわざとらしく指差確認してカヌーのとも綱を外す。目指すは滑河(なめがわ)、約25km下流。この時間から漕ぎ始めれば夕方までには着けるはずだ。楽勝である。案ずる事は無い、ノープロブレムである。お茶の子さいさいである。へへへのへーである。

「通ります〜、戻ってはこないのであとはごゆっくり!」わたしは爺さんたちに声をかけ、岸を蹴った。
 野田知佑さんの小説の中に「二度と会うことのない男たちに手を振った」という一節があるのだが、それをちょっと真似て気取ってみたのである。案の定妙な顔をされたが、まあそれも計算の内、男は笑われてなんぼ(?)だ。

 わたしは高揚していた。バランスを取りながらシートにフワリと腰を下ろし、パドルを持って万歳をした。さあ自由だぞ、といういつもの儀式だ。
 しかしである、何故か今日に限ってその瞬間「気をつけてよ」という、出掛けに妻が言った台詞が頭の中を駆け巡った。そしてその直後である。シートの真下でズギギーッ(そういう風に聞こえたのだ)という嫌な音がした。実にヨロピクない音である。

 わたしはパンツが濡れるのがことのほか嫌な性質(たち)である。水泳パンツでさえ濡れるのが嫌だ。カヌーイストにとってはパンツが濡れることぐらい日常茶飯事だろうが、わたしは嫌なのだ。もっと歳をとって、お漏らしするようになったら即自殺したい。
 あいや、そういう話じゃないのである。ズギギーッと音がしたのである。そして遂に50m漕いだ所でジワジワと浸水してきた。パンツが半分濡れてきた。「半分濡れる」というのがちょっと意味が分らないが、まあフィーリングだ。ヤバイ、マジでヤバイ。なぜなら、わたしは最終的にケツの穴が濡れるとあっという間に窒息死する体質なので、すぐに焦りが頂点に達してしまった。パニック状態である。ヤバイヤバイ、助けて助けて〜! レイチェルか俺は!


 13日の金曜日……呪われた金曜日……ジェイソンがチェーンソーを振りかざして命を奪いにやって来る日なのである。水を掻き出しながら行けば、行けなくもない気がしたが、もっとひどい結末が待っているような予感がした。
 往復に3時間、組み立てと片付けに1時間半、無駄になるものは大きいが、やむなく今日は100m漕いで撤退することにした。決断は早い方がいいのである。。
 利根川の藻屑(モクズ)になるよりは、帰宅してモズクで一杯だろう。
 
 船底の切れ方からすると、今日水中に潜んでわたしを待ち伏せしていたのは“ジェイソン”ではなくて、どうやら“切り裂きジャック”だったようである。きっと手伝いに来ていたのだろう。13日の金曜日ともなると殺人鬼もおそらく人手不足なのだろうなあ。互助会みたいなものがあって手配士なんかも居るのだろうか。大久保清や川俣軍司も……。